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エッセイ第21回「方言の風合(ふうあい) その1」

2017年02月01日

 「おばさん。そのはせつか」「エッ?何と言ったの。」これは、半世紀以上前に、わが級友T君が早稲田大学に合格早々、大学の売店で発した西讃地方の方言に驚いた女性店員との会話であり、二八会同窓会内での語り草になっていることだ。「はせ」→ボタン、「つか」→ください、の意である。東京に住み標準語を日常語として会話している女性に「はせ、つか」では、全然通じない。何語なのか、びっくりされたことだろう。

 中日新聞で当地の方言が紹介されたこともある。それは二八会が3~5年の頻度で開催している全国同窓会の案内状に『みな、もんてきて、つか』と書いたところ、名古屋に住む女性会員を経て、新聞に掲載されたものだ。(みなさん、…〔古里へ〕…帰って来てください。)  と方言で誘われると、かつての日、方言で気兼ねなく語り合った学友たちの顔々が思い浮かんだ。懐かしさが、こみ上げてきた。出不精は吹き飛んで、出席の返事を出したというものであった。
 方言は、標準語に対して、田舎者の言葉として気おくれしていたが、よく考えてみると、方言でないとその時、その場の味わいが表現出来ないことが少なくない。

 もう、随分以前のことだが、私は大阪で道を尋ねたことがある。職人風の男性が、とても親切で「あの向こうの薬局の看板を、右に曲がって、お行きなはれ」と教えてくれた。「お行きなはれ」は、大阪弁の持つ風合いがあって、何とも暖かい響きであった。標準語なら、冷たい感じがするが、どう表現すればいいのだろうか。ことほどさように、私はそのことから、わが郷土の方言を集めたり語源を調べたりすることに熱心になった。子どもの頃からずっとこの地で住んでいて、仕事もこの地方でやっていると云う友人たちと、打ち解けて話していると、相手はもちろん、私のほうも、誘発されて自分で思いがけない方言が飛び出してくることがあり、慌てて手帳に書いたりした。そうそう、そんな言い方があった!とひとりでガッテンして書き留めたものも、かなり出来た。

 600語以上になったら、パンフレットで出版しても良いと聞いたので、友人のF君に渡したら、彼は毎月発行のミニコミ紙に載せていった。彼は自分で集めたものも加えていたが一年くらいでネタ切れとなり止まった。それでも新たな発見があると、書き加えていたのだが、ある時ふと思ったことがある。それは英語の堪能な人は、『英語で考えている』らしいことだ。若者たちはともかくも、私共のような年配になると、感情が激した時や、とっさの時には、子どもの頃から身についた『方言で考えている』場合が多いことだ。    (ひやつけなこと考えて、なんしに、そななこと、できるはずなかろうが)といった調子である。
                                                   次回へつづく

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